主要サービス解説
各サービスの「何者か・いつ使うか・いくらか」を整理します。すべての参考文献はCloudflare公式ドキュメントです。料金は2026年8月時点・1USD=150円換算の目安です。
前提知識:バインディングという考え方
Cloudflareのサービス群は、Worker(コンピュート)を中心にバインディングで結び付けます。バインディングとは、設定ファイルwrangler.jsoncに「このWorkerはこのD1データベースとこのR2バケットを使う」と宣言すると、コード内でenv.DBやenv.BUCKETのようなオブジェクトとして安全に使えるようになる仕組みです。接続文字列やAPIキーをコードに書かずに済むため、セキュリティ面でも優れています。
// wrangler.jsoncでD1をバインドすると、コードからはenv経由で使える
export default {
async fetch(request, env) {
const { results } = await env.DB
.prepare("SELECT * FROM users WHERE id = ?")
.bind(1)
.all();
return Response.json(results);
},
};
コンピュート
Workers中心サービス
エッジ上でJavaScript/TypeScript(およびWASM)を実行するサーバーレス実行環境です。HTTPリクエストの処理、APIサーバー、スケジュール実行など、Cloudflare上のあらゆるロジックの置き場所になります。V8アイソレートという軽量な仕組みで動くため、コールドスタートは実質ミリ秒未満です。
- ユースケース:APIサーバー、BFF、Webアプリ本体、Webhook受信、定期バッチ
- 無料枠:10万リクエスト/日(CPU時間は1呼び出し10ミリ秒まで)
- 有料:月額$5(約750円)で1,000万リクエスト+3,000万CPUミリ秒込み。超過は$0.30/100万リクエスト。実行時間ではなくCPU時間で課金されるため、外部API待ちの長いAI系アプリでも安価
静的アセット(Static Assets)無料・無制限
HTML・CSS・JS・画像などの静的ファイルをWorkerと一緒にデプロイして配信する機能です。従来はCloudflare Pagesが担っていた役割で、現在はWorkersへの統合が推奨されています。静的アセットへのリクエストは無料かつ無制限です。
- ユースケース:SPA・SSGサイトの配信、Webアプリのフロントエンド
- 制限:1ファイル25MiBまで。有料プランは1バージョンあたり10万ファイルまで(無料は2万)
- Static Assets
- Cloudflare Pages(既存プロジェクト向け)
Cron Triggers
Workerをcron式で定期実行する仕組みです。有料プランではCron起動の1回あたり最大15分のCPU時間が使えるため、集計バッチや外部データ取り込みに十分対応できます。
- ユースケース:日次集計、リマインダー送信、外部APIポーリング、データ同期
- 制限:アカウントあたり無料5個・有料250個
Containers補完的
Workerの実行環境(V8アイソレート)では動かせないもの、たとえば任意のLinuxバイナリや重いランタイムをコンテナとして実行する機能です。Workerがフロントに立ち、必要なときだけコンテナを起動する構成をとります。
- ユースケース:ヘッドレスブラウザ以外のネイティブ処理、既存のDockerイメージ資産の活用、FFmpegなどのバイナリ実行
データ・ストレージ
Cloudflareの設計力は「どのデータをどこに置くか」で決まります。まず全体像を押さえましょう。
| サービス | データモデル | 整合性 | 向いているデータ |
|---|---|---|---|
| KV | キーバリュー | 結果整合(伝播に時間がかかる) | 設定値、キャッシュ、読み取りが圧倒的に多いデータ |
| D1 | リレーショナル(SQLite) | プライマリで強整合 | ユーザー・案件などの業務データ全般 |
| R2 | オブジェクト | 強整合 | 画像・PDF・動画・ログなどのファイル |
| Durable Objects | インスタンス+SQLite | 単一インスタンスで強整合 | リアルタイム状態、ロック、カウンタ、チャットルーム |
| Queues | メッセージ | 少なくとも1回配信 | 非同期ジョブ、イベント |
| Hyperdrive | 外部RDBへの接続 | 接続先DBに依存 | 既存のPostgres/MySQL資産 |
Workers KV
グローバルに複製されるキーバリューストアです。読み取りはエッジ各拠点にキャッシュされるため非常に高速ですが、書き込みの反映は結果整合(デフォルト60秒、最短30秒のキャッシュTTL)です。「たまに書き、大量に読む」データに最適です。
- ユースケース:機能フラグ、APIレスポンスキャッシュ、セッショントークン、リダイレクト表
- アンチパターン:書き込み直後の読み取りに一貫性が必要な処理(在庫数、残高など)
D1SaaSの主戦力
SQLiteベースのマネージドリレーショナルデータベースです。SQLがそのまま使え、リードレプリカが追加費用なしで世界6リージョンに自動配置されます。課金は「読み書きした行数+保存容量」で、アイドル時のインスタンス費用がありません。
- ユースケース:業務アプリのメインDB、ユーザー管理、案件・商談データ
- 無料枠:読み取り500万行/日、書き込み10万行/日、保存5GB
- 有料:読み取り250億行/月・書き込み5,000万行/月・保存5GBまで込み。超過は読み取り$0.001/100万行、書き込み$1.00/100万行、保存$0.20/GB月
R2エグレス無料
S3互換APIを持つオブジェクトストレージです。最大の特徴はデータ転送料(エグレス)が完全無料であること。画像や動画を大量配信するサービスでは、S3+CloudFront構成と比べてコストが桁違いに下がることがあります。
- ユースケース:ユーザーアップロードファイル、画像・動画配信、バックアップ、データレイク
- 無料枠:保存10GB/月、Class A操作100万回/月、Class B操作1,000万回/月
- 有料:保存$0.015/GB月(約2.3円/GB月)、エグレスはどれだけ配信しても$0
Durable Objectsリアルタイムの要
「世界にただ1つのインスタンス」を名前付きで作れる、状態を持つサーバーレスオブジェクトです。同じIDへのアクセスは必ず同じインスタンスに届くため、排他制御やリアルタイム協調の単一調整点として機能します。各インスタンスは専用のSQLiteストレージを持ちます。
- ユースケース:チャット、共同編集、ゲームのマッチルーム、分散ロック、レートリミッタ、AIエージェントの実行基盤
- WebSocket Hibernation:接続を維持したままアイドル時にメモリから退避し、稼働時間課金を止められる仕組み。リアルタイムアプリのコストを大きく下げる重要機能
- 料金:無料プランでも利用可。有料はリクエスト数+稼働時間+SQLiteの行読み書き(単価はD1と同じ)
Queues
メッセージキューです。Workerからsend()したメッセージを、別のWorker(コンシューマ)がバッチで受け取って処理します。自動リトライと、規定回数失敗したメッセージを退避するデッドレターキューを備えます。
- ユースケース:メール送信、画像処理、外部API連携、監査ログ書き込みなど「レスポンスを待たせたくない処理」全般
Workflows
複数ステップの処理を「途中で失敗しても最後に成功したステップから再開できる」形で実行する耐久実行エンジンです。各ステップは自動リトライされ、step.sleep()で数時間〜数日の待機、waitForEvent()で人の承認待ちもできます。
- ユースケース:ユーザー登録後の一連処理、帳票生成パイプライン、承認フロー、長時間かかるAIエージェントのタスク
Hyperdrive
既存のPostgres/MySQLデータベース(AWS RDS、Neon、Supabaseなど)へWorkerから高速接続するためのコネクションプール+クエリキャッシュです。エッジからリージョンDBへ接続する際のTCPハンドシェイク往復を省き、既存のドライバやORMがコード変更なしで使えます。MySQL対応は2026年8月にGAしました。
- ユースケース:既存DB資産を持つシステムのエッジ移行、D1では容量・機能が足りない場合のRDB接続
AI
Workers AI + AI Gateway統合済み
Workers AIはエッジGPU上でオープンモデル(Llama系、埋め込みモデルなど)を実行するサーバーレス推論です。AI GatewayはAI呼び出しの手前に置くプロキシで、ログ・分析・キャッシュ・レート制限・リトライ・フォールバックを提供します。2026年8月に両者は統合され、同じenv.AI.run()とREST APIからWorkers AIのモデルも外部プロバイダ(Anthropic、OpenAIなど)のモデルも呼べるようになりました。
- ユースケース:埋め込み生成、軽量な分類・要約はWorkers AI、高度な推論は外部LLMをAI Gateway経由で。トークン使用量・コスト・エラー率を一元監視
Vectorize
ベクトルデータベースです。テキストを埋め込みモデルで数値ベクトルに変換して保存し、意味の近さで検索できます。RAG(検索拡張生成)の検索側を担います。
- ユースケース:社内ドキュメント検索、FAQボット、類似案件の推薦
AI Search(旧AutoRAG)マネージドRAG
R2バケットにドキュメントを置くだけで、チャンク分割・埋め込み生成・Vectorizeへのインデックス・検索・回答生成までを自動で行うマネージドRAGパイプラインです。データソースとの同期も継続的に行われます。
- ユースケース:RAGを最速で立ち上げたいとき。細かく制御したくなったらVectorize直接利用へ移行
Agents SDKAIエージェント基盤
状態を持つAIエージェントを構築するためのフレームワークです。Durable Objects上に構築されており、各エージェントインスタンスが自分専用のSQLiteデータベース(this.sql)と状態(this.setState)を持ち、WebSocketでクライアントと直結し、this.scheduleで自律的にタスクを予約できます。ReactからはuseAgentフックで接続します。
- ユースケース:チャットアシスタント、長時間タスクを進めるエージェント、MCPサーバーの実装
- 設定の注意:wrangler設定で
new_sqlite_classesへの登録が必須
配信・ネットワーク
CDN・キャッシュ / DNS / ロードバランシング
Cloudflareの原点です。ドメインをCloudflareに向けるだけで、静的コンテンツのキャッシュ配信・DDoS対策・TLS終端が有効になります。DNSは世界最速クラスの権威DNS。ロードバランシングは複数オリジンへの振り分けとヘルスチェックを提供します。WorkersからはCache APIで edge キャッシュをプログラマブルに操作できます。
- ユースケース:既存サイトの高速化・保護(オリジンはそのまま)、マルチクラウドの前段
- Cache / DNS / Load Balancing
セキュリティ
WAF・レート制限
SQLインジェクションやXSSなど既知の攻撃パターンを遮断するマネージドルールと、自分で条件を書けるカスタムルール、そして「同一IPから1分間にログイン試行10回まで」のようなレート制限ルールを提供します。DDoS対策は全プラン標準です。
Turnstile無料
CAPTCHAの代替です。ユーザーにパズルを解かせることなく、ブラウザ内のシグナルからボットを判定します。ログイン・会員登録・問い合わせフォームに埋め込み、サーバー側でトークンを検証して使います。Cloudflare配下でないサイトにも埋め込めます。
Zero Trust Access / Tunnel
Accessは社内ツールや管理画面の前段に置く認証ゲートです。GoogleやMicrosoftなどのIdPと連携し、「この管理画面は社員のみ・MFA必須」といったポリシーをアプリのコードを変えずに適用できます。Tunnelはファイアウォールに穴を開けずに社内サーバーをCloudflare経由で公開する仕組みです。
- ユースケース:SaaSの管理画面保護、ステージング環境の限定公開、社内ツールのVPNレス化
- 注意:一般ユーザー向けのログイン機能はアプリ側で実装するのが基本。Accessは「運営側・社内側」の保護に使うと整理すると分かりやすい