主要サービス解説

各サービスの「何者か・いつ使うか・いくらか」を整理します。すべての参考文献はCloudflare公式ドキュメントです。料金は2026年8月時点・1USD=150円換算の目安です。

目次
  1. 前提知識:バインディング
  2. コンピュート
  3. データ・ストレージ
  4. AI
  5. 配信・ネットワーク
  6. セキュリティ

前提知識:バインディングという考え方

Cloudflareのサービス群は、Worker(コンピュート)を中心にバインディングで結び付けます。バインディングとは、設定ファイルwrangler.jsoncに「このWorkerはこのD1データベースとこのR2バケットを使う」と宣言すると、コード内でenv.DBenv.BUCKETのようなオブジェクトとして安全に使えるようになる仕組みです。接続文字列やAPIキーをコードに書かずに済むため、セキュリティ面でも優れています。

// wrangler.jsoncでD1をバインドすると、コードからはenv経由で使える
export default {
  async fetch(request, env) {
    const { results } = await env.DB
      .prepare("SELECT * FROM users WHERE id = ?")
      .bind(1)
      .all();
    return Response.json(results);
  },
};
参考文献(公式ドキュメント)

コンピュート

Workers中心サービス

エッジ上でJavaScript/TypeScript(およびWASM)を実行するサーバーレス実行環境です。HTTPリクエストの処理、APIサーバー、スケジュール実行など、Cloudflare上のあらゆるロジックの置き場所になります。V8アイソレートという軽量な仕組みで動くため、コールドスタートは実質ミリ秒未満です。

例えるなら:世界300都市に同時に配置される、超軽量なAWS Lambda。デプロイは数秒で全世界に反映されます。

静的アセット(Static Assets)無料・無制限

HTML・CSS・JS・画像などの静的ファイルをWorkerと一緒にデプロイして配信する機能です。従来はCloudflare Pagesが担っていた役割で、現在はWorkersへの統合が推奨されています。静的アセットへのリクエストは無料かつ無制限です。

例えるなら:S3+CloudFrontのホスティングが、APIサーバーと同じデプロイ単位に同梱されて配信無料になったもの。

Cron Triggers

Workerをcron式で定期実行する仕組みです。有料プランではCron起動の1回あたり最大15分のCPU時間が使えるため、集計バッチや外部データ取り込みに十分対応できます。

Containers補完的

Workerの実行環境(V8アイソレート)では動かせないもの、たとえば任意のLinuxバイナリや重いランタイムをコンテナとして実行する機能です。Workerがフロントに立ち、必要なときだけコンテナを起動する構成をとります。

データ・ストレージ

Cloudflareの設計力は「どのデータをどこに置くか」で決まります。まず全体像を押さえましょう。

サービスデータモデル整合性向いているデータ
KVキーバリュー結果整合(伝播に時間がかかる)設定値、キャッシュ、読み取りが圧倒的に多いデータ
D1リレーショナル(SQLite)プライマリで強整合ユーザー・案件などの業務データ全般
R2オブジェクト強整合画像・PDF・動画・ログなどのファイル
Durable Objectsインスタンス+SQLite単一インスタンスで強整合リアルタイム状態、ロック、カウンタ、チャットルーム
Queuesメッセージ少なくとも1回配信非同期ジョブ、イベント
Hyperdrive外部RDBへの接続接続先DBに依存既存のPostgres/MySQL資産

Workers KV

グローバルに複製されるキーバリューストアです。読み取りはエッジ各拠点にキャッシュされるため非常に高速ですが、書き込みの反映は結果整合(デフォルト60秒、最短30秒のキャッシュTTL)です。「たまに書き、大量に読む」データに最適です。

例えるなら:世界中にレプリカが置かれる設定ファイル置き場。DynamoDBというよりElastiCache+S3の中間に近い使用感です。

D1SaaSの主戦力

SQLiteベースのマネージドリレーショナルデータベースです。SQLがそのまま使え、リードレプリカが追加費用なしで世界6リージョンに自動配置されます。課金は「読み書きした行数+保存容量」で、アイドル時のインスタンス費用がありません。

例えるなら:RDSのように常時起動費用を払うのではなく、クエリした行数だけ払うSQLite。1データベース10GBまでなので、テナントごとにDBを分ける設計とも相性が良いです。

R2エグレス無料

S3互換APIを持つオブジェクトストレージです。最大の特徴はデータ転送料(エグレス)が完全無料であること。画像や動画を大量配信するサービスでは、S3+CloudFront構成と比べてコストが桁違いに下がることがあります。

例えるなら:ダウンロード課金のないS3。既存のS3向けSDKやツールがほぼそのまま使えます。

Durable Objectsリアルタイムの要

「世界にただ1つのインスタンス」を名前付きで作れる、状態を持つサーバーレスオブジェクトです。同じIDへのアクセスは必ず同じインスタンスに届くため、排他制御やリアルタイム協調の単一調整点として機能します。各インスタンスは専用のSQLiteストレージを持ちます。

例えるなら:チャットルームや会議室そのものをオブジェクトにしたもの。「room-123」というIDでアクセスすれば、世界中の誰もが同じインスタンスにつながります。

Queues

メッセージキューです。Workerからsend()したメッセージを、別のWorker(コンシューマ)がバッチで受け取って処理します。自動リトライと、規定回数失敗したメッセージを退避するデッドレターキューを備えます。

例えるなら:SQS+Lambdaトリガーが最初から一体化したもの。

Workflows

複数ステップの処理を「途中で失敗しても最後に成功したステップから再開できる」形で実行する耐久実行エンジンです。各ステップは自動リトライされ、step.sleep()で数時間〜数日の待機、waitForEvent()で人の承認待ちもできます。

例えるなら:コードで書くStep Functions。LLM呼び出しのような失敗しやすい処理の連鎖と相性抜群です。

Hyperdrive

既存のPostgres/MySQLデータベース(AWS RDS、Neon、Supabaseなど)へWorkerから高速接続するためのコネクションプール+クエリキャッシュです。エッジからリージョンDBへ接続する際のTCPハンドシェイク往復を省き、既存のドライバやORMがコード変更なしで使えます。MySQL対応は2026年8月にGAしました。

例えるなら:RDS Proxyのグローバル版。「DBは今のまま、アプリだけエッジに移す」移行戦略を可能にします。

AI

Workers AI + AI Gateway統合済み

Workers AIはエッジGPU上でオープンモデル(Llama系、埋め込みモデルなど)を実行するサーバーレス推論です。AI GatewayはAI呼び出しの手前に置くプロキシで、ログ・分析・キャッシュ・レート制限・リトライ・フォールバックを提供します。2026年8月に両者は統合され、同じenv.AI.run()とREST APIからWorkers AIのモデルも外部プロバイダ(Anthropic、OpenAIなど)のモデルも呼べるようになりました。

例えるなら:AI GatewayはAI版のAPIゲートウェイ+課金メーター。プロバイダを差し替えても観測とコスト管理の仕組みは変わりません。

Vectorize

ベクトルデータベースです。テキストを埋め込みモデルで数値ベクトルに変換して保存し、意味の近さで検索できます。RAG(検索拡張生成)の検索側を担います。

AI Search(旧AutoRAG)マネージドRAG

R2バケットにドキュメントを置くだけで、チャンク分割・埋め込み生成・Vectorizeへのインデックス・検索・回答生成までを自動で行うマネージドRAGパイプラインです。データソースとの同期も継続的に行われます。

Agents SDKAIエージェント基盤

状態を持つAIエージェントを構築するためのフレームワークです。Durable Objects上に構築されており、各エージェントインスタンスが自分専用のSQLiteデータベース(this.sql)と状態(this.setState)を持ち、WebSocketでクライアントと直結し、this.scheduleで自律的にタスクを予約できます。ReactからはuseAgentフックで接続します。

例えるなら:「ユーザーごとに専属秘書プロセスを1つずつ常駐させる」仕組み。会話履歴も作業状態も秘書自身が覚えています。

配信・ネットワーク

CDN・キャッシュ / DNS / ロードバランシング

Cloudflareの原点です。ドメインをCloudflareに向けるだけで、静的コンテンツのキャッシュ配信・DDoS対策・TLS終端が有効になります。DNSは世界最速クラスの権威DNS。ロードバランシングは複数オリジンへの振り分けとヘルスチェックを提供します。WorkersからはCache APIで edge キャッシュをプログラマブルに操作できます。

セキュリティ

WAF・レート制限

SQLインジェクションやXSSなど既知の攻撃パターンを遮断するマネージドルールと、自分で条件を書けるカスタムルール、そして「同一IPから1分間にログイン試行10回まで」のようなレート制限ルールを提供します。DDoS対策は全プラン標準です。

Turnstile無料

CAPTCHAの代替です。ユーザーにパズルを解かせることなく、ブラウザ内のシグナルからボットを判定します。ログイン・会員登録・問い合わせフォームに埋め込み、サーバー側でトークンを検証して使います。Cloudflare配下でないサイトにも埋め込めます。

Zero Trust Access / Tunnel

Accessは社内ツールや管理画面の前段に置く認証ゲートです。GoogleやMicrosoftなどのIdPと連携し、「この管理画面は社員のみ・MFA必須」といったポリシーをアプリのコードを変えずに適用できます。Tunnelはファイアウォールに穴を開けずに社内サーバーをCloudflare経由で公開する仕組みです。

次はアーキテクチャパターン集で、これらのサービスを組み合わせた典型構成を図で確認しましょう。